来 歴


新しい景色


もう少し先まで行って
そこから振りかえつてみよう
この麦畑も
今とは反対の景色に見えるかもしれない
景色が青くかすんでしまつてからは
何が麦畑の次にあるのだろうか
いつも遠くの方は見えず
一年先が晴れているか曇つているか
皆目知ることができない
何ごともみんなのいうとおり
でなかつたら神様のおぼしめしのまま
レールの上しか走れない汽罐車と同じ
神様が長い旅にお出ましになつてからは
レールの上を走らない汽罐車より始末が悪い
熱のさめた石炭がらを放り出すように
或る日もえつくした青春を捨ててみる
すると悲しいかな
かわりの明け暮れがしきりに気にかかる

未来は私をえらんだ
私が欲したわけでもないのに
私を女となづけた
木よりも高くない背丈と
背丈よりも大きくなる望みを授けた
今度は私が未来をとりあげてやる
明日には平和とも戦いとも名をくれてやる
一人前だけ残つているまだ何でもない土地に
あれちのぎくを咲かせるのも
麦の花をふやすのもどれも私の望みしだいだ
私の道を明日の分だけ歩いて
そこに何があるか見に行こう
こうまんな口つきの赤い花が立つていたり
根のない家が傾いていたりするのはごめんだ
どこまでも
いちめんの麦畑がかすんでいる方がいい
それがいやなら
たくましい若者を連れて行つて
ずつと向うまで植えてやる
今こそすべての景色を私の望みのとおりに作つてやる

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